水戸のDNAが結実した一年。J2優勝・J1昇格、そして次の挑戦へ
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2025明治安田J2リーグ。 水戸ホーリーホックは、クラブ史上初となるリーグ優勝、そしてJ1昇格という大きな節目のシーズンを走り切りました。 決して派手なスタートではなかった今季。目の前の一戦に向き合い続け、その積み重ねが、気づけば大きな結果へとつながっていました。 本特集では、2025シーズンを戦い抜いた選手たちの言葉を通して、優勝と昇格の裏側にあった選手の想いを振り返ります。(2025年12月掲載)
歴史を塗り替えた2025年。史上まれにみる混戦を制した水戸
クラブ創設31年、J2参入26年目。
水戸ホーリーホックは今季、ついにJ2リーグ優勝とJ1昇格という悲願を成し遂げました。
前田大然選手や小川航基選手ら日本代表を輩出し、近年は「育成の水戸」として評価を高めてきたクラブ。2025シーズンは、水戸のDNAを知り尽くす在籍23年目の森直樹監督が2年目の指揮を執り、攻守にスピーディーで迷いのないスタイルを徹底しました。
日本人選手としてJ2最多となる13得点を挙げたエースFW渡邉新太選手を筆頭に、ピッチ上で献身的にチームを支え続けた地元・桜川市出身のDF飯田貴敬選手、“水戸の心臓”として中盤を司った大崎航詩選手、そして通算8ゴールのうち3度の月間ベストゴール賞に輝いたU-22日本代表・齋藤俊輔選手。
彼らを中心に、個の力と堅守を軸とした組織力がかみ合い、チームはJ2リーグを席巻しました。
シーズン前半には破竹の8連勝、後半序盤まで15試合無敗というクラブ新記録を樹立し、約3か月間にわたって首位を快走。
終盤には苦しい時期もありましたが、2位で迎えた大分トリニータとの最終戦では、クラブ史上最多となる1万743人の大観衆が詰めかけたホームで見事勝利を収めます。
勝ち点70で並んだV・ファーレン長崎を得失点差で上回り、劇的な逆転優勝。
最終節を迎える時点で3チームに優勝の可能性が残された、史上まれに見る大混戦のJ2リーグを制し、水戸ホーリーホックはついにJ1への扉をこじ開けました。
森直樹監督
土地に根づいた力が、
最後にチームを押し上げた
経験豊富なベテランや中堅の選手たちが高い基準を示しながら若手を引っ張り、のびのびとプレーできる環境を作ってくれたことが、初のJ1昇格とJ2優勝に大きく結びついたと思います。優勝セレモニー後には水戸OBのグループLINEが大いに盛り上がり、これまで築いてきたものが本当に報われたと感じました。今季は茨城県出身や筑波大出身、さらには初代監督・中野雄二氏が率いる流通経済大の出身者が多く在籍し、優勝と昇格の立役者となりました。偶然の巡り合わせではありますが、地元の力が確かに存在することを実感しました。今季築いた土台はJ1でも通用すると考えていますので、まずは昇降格のないハーフシーズン(明治安田J1百年構想リーグ)で思い切ってチャレンジしていきたいです。
FW 渡邉新太選手
もう一度、自分の価値を証明するために。
選択が結んだ優勝と再出発
昨季、契約満了を経験し、水戸に来たのは、もう一度自分の価値を証明するという前向きな選択をしたからです。正直、昇格や優勝の確信は全くなく、常に危機感を持って、一試合一試合全力で取り組んだ結果だと思います。森監督をはじめ、チームの厳しさがあったからこそ、この結果につながりました。
個人としてはキャリアハイの13ゴールとなりましたが、怪我もあり全然満足はできませんでしたが、最終節、運命的に古巣・大分と戦い、優勝の瞬間にピッチにいられて、本当に嬉しかったです。どんなときも自分を信じて真摯にサッカーと向き合えば、願いは叶うと証明できました。J1へ行くには、すべてにおいて今のままではダメで、危機感を持ってレベルアップが必要です。J1でしっかり活躍することが今の目標です。
DF 飯田貴敬選手
最高の景色は現実にあった
故郷で掴んだ優勝と昇格
今の心境は最高でしかないです。夢で見たシャーレを掲げる瞬間は、現実の方がもっといい景色でした。故郷の茨城のクラブで優勝、昇格できたことは、今後の人生の大きな財産です。今年は自分の評価より、チームの勝利と地域のことだけを考えてプレーしました。誰かのためにプレーした結果、力が湧いてきて優勝を掴めたと感じています。
ホーム開幕戦の山形戦の勝利で昇格の希望が見え、ターニングポイントを乗り越え、パズルを完成させたシーズンでした。最終戦は負傷で欠場し、ピッチ外から親のような気持ちで見ていましたが、本当に仲間を信じられた試合でした。J1は自分のスタイルが輝く舞台。昇格した責任を持ち、J1仕様のプレーを見せて、水戸にサッカー文化を根付かせたいです。
MF 齋藤俊輔選手
転機はアウェイ今治戦。
自信を掴み、頂点へと駆け上がったシーズン
優勝と昇格ができて、「本当にしちゃった!」という感じです。最終戦は楽しめたし、自分のプレーもちゃんと出せたと思います。プロ2年目で世代別の日本代表に選ばれ、U20W杯に行き、クラブで優勝も経験するなんて、全く想像していませんでした。
自分の中で一番成長したのは、自分自身の特徴を出せる自信です。きっかけはアウェイ今治戦のゴールとパフォーマンス。あの時、(大崎)航詩に鼓舞されて、自分らしさを思い切り出すことができました。今季、(渡邉)新太君にはピッチ内外で厳しいアドバイスを受けながらも助けられ、その背中を見て基準が上がり、結果を出す重要性を学びました。入団当初に予想していた将来像をはるかに超えられ、もっと自信を持ってサッカーがやれると確信しました。
FW 多田圭佑選手
走るだけだった自分から、
勝負を決める存在へ
優勝と昇格ができて嬉しいですが、数日経ってもまだ実感が湧きません。最終戦の決勝ゴールは、何が起こったか分かってなくて、仲間にベンチへ連れて行かれて初めてシュートが入ったと分かりました。地元出身者として昇格を決めるゴールが決められて良かったです。
ルーキーイヤーの最初は自分らしさを出せず、走るだけでした。「止める・蹴る」のプロとの差を痛感しましたが、ちー君(加藤千尋選手)の落ち着いたプレーを見て、終盤になってボールを受けるのが怖くなくなりました。終盤は昇格のプレッシャーを感じましたが、監督が若手を信じて使ってくれたことに感謝しています。来年はJ1で茨城ダービーを戦い、鹿島サポーターを黙らせるようなシュートを決めたいです。
DF 鷹啄トラビス選手
JFLから頂点へ
夢のような一年を駆け抜けて
JFLの舞台から来た僕にとって、この優勝・昇格は夢のような一年でした。昨年、働いていた病院の患者さんたちにも活躍を届けられ、本当に良かったです。自分のプレーへの自信は常に持っていたので、ルヴァンカップでチャンスを掴み、ホーム札幌戦からスタメンを勝ち取りました。課題だったビルドアップも、自信を持つだけで劇的に上達しましたし、外国人選手とのマッチアップは、駆け引きを含めて本当に楽しかったです。
特に徳島ヴォルティスのルーカス・バルセロス選手が一番印象に残っています。夏の中断明けからのスランプを乗り越え、最高の結果を掴み取り、「諦めないでサッカーを続けてきてよかった」と心から思いました。親孝行もできて、本当に幸せです。
DF 大崎航詩選手
何度負けても信じ続けた
ついに辿り着いたこの景色
今季、ボランチにコンバートされ、毎日が刺激的で発見に満ちたシーズンでした。このJ2優勝・J1昇格という結果は、驚きというレベルを超え、「一体何が起きているんだ!?」と毎試合のように衝撃を受けていました。
5年前に入団した時から、いつかこの光景を夢見てきましたが、ファンの方々が「生きている内に見られたら…」と語るほど、長らく現実味がありませんでした。100回負けても、最後に勝てばいい。そう信じながらも、誰よりも苦しみと悔しさを味わってきました。だからこそ、最終節、喜びと涙で溢れるスタジアムを見た時、これまで水戸ホーリーホックを紡いできた人々の全てがここに繋がり、自分自身も報われたと強く感じました。
そして、次の物語へ
2025シーズン。水戸ホーリーホックは、長く積み重ねてきた挑戦と我慢の先に、J2リーグ優勝とJ1昇格という最高の景色をつかみ取りました。
それは決して一瞬の勢いや偶然ではなく、「育成の水戸」として培ってきた哲学、現場の覚悟、そしてピッチに立つ選手一人ひとりの積み重ねが結実した結果でした。
歓喜の瞬間を迎えた今も、クラブはすでに次を見据えています。
J1という日本サッカー最高峰の舞台は、これまで以上に厳しく、そして刺激的な世界。
しかし、水戸ホーリーホックはこれまでも、決して恵まれているとは言えない環境の中で、自分たちのやり方を信じ、前に進み続けてきました。
勝ち取った昇格はゴールではなく、新たなスタート。この街とともに歩んできたクラブが、さらに大きな挑戦へ踏み出すための第一歩です。
次に待っているのは、未知の舞台と新たな物語。
その歩みの先に、どんな景色が広がっているのか――。
水戸ホーリーホックは、これからも前を向いて進み続けます。
そして、スタンドから、街から、ファン・サポーターの変わらぬ声援がその背中を押し続けます。