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2025.05.28

【茨城県神栖市】国指定重要文化財・山本家住宅~郷土の歴史と暮らしを今に伝える~

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【茨城県神栖市】国指定重要文化財・山本家住宅~郷土の歴史と暮らしを今に伝える~

18世紀前半に建てられたとされる、神栖市で唯一の国指定重要文化財・山本家住宅。江戸時代中期の漁家の暮らしを今に伝える、全国でも貴重な文化遺産です。今年度は偶数月の第一土曜日に「開放デー」を開催中。名主の旧家を継ぐ子孫のお話に耳を傾けながら、郷土の歴史や文化を辿り、日本の暮らしの移り変わりに思いを巡らせてみませんか?
(2025年5月時の情報です)

全国で数カ所しかない 貴重な漁家の重要文化財

鹿島灘に近い神之池のほとりにたたずむ、緑豊かで静かな環境に包まれた山本家住宅。江戸時代には網元として漁業を営み、名主も務めていた由緒ある旧家です。1976年に国の重要文化財に指定された同住宅で、まず目を惹くのが茅葺き屋根の「寄棟(よせむね)造り」。また、外観は南正面の東寄りが大きく突き出た「曲屋(まがりや)」で、正面と西側の屋根は、軒下に張り出した「せがい造り」になっています。これらの建築様式が保全され、江戸時代の漁家の暮らしぶりを今に伝える、貴重な文化財となっています。

建築後も度々修理が行われ、近年では1992年からの2年間にわたる全面解体修理工事をはじめ、床上85センチもの津波被害を受けた東日本大震災後の復旧工事、さらに2022年には茅葺き屋根の全面葺き替えや耐震・補修工事が施されるなど、約300年にわたって大切に受け継がれてきました。

こうした歴史を持つ山本家住宅は、漁家として国の重要文化財に指定されている全国でも数少ない貴重な建物の一つ。1993年に開館した歴史民俗資料館は、この住宅の「曲屋」をイメージして設計されるなど、今も神栖の文化財のシンボル的存在となっています。

研究者も度々訪れる学術的にも貴重な建築物

建物や茅葺き屋根の保存修理工事が何度も行われた

文化財価値や景観を損なわないよう現状を生かしながら、一部補強を行った

2011年の東日本大震災では浸水被害も

津波の被害により、古い資料などもだいぶ失われたとのこと

山本家の生き字引が生家を案内 300年住宅の建築美と暮らしのための構造美

そんな山本家住宅では、国の指定文化財として年に数回、建物の内部を一般公開する「開放デー」が行われています。通常は非公開のこの貴重な文化財を間近で見学し、当時の暮らしを五感で体験できる機会として、歴史や建築に関心のある方にとっても見逃せない催しとなっています。

そこで案内役を務めているのが、山本家の三男で現在の管理人でもある山本信三郎さん。1947年にこの住宅で生まれ、20代後半まで実際に暮らしていた山本さんは、まさにこの家の“生き字引”。「思い入れの深い、私の原点とも言えるこの場所を通じて、地域の皆さんに郷土の歴史や文化はもちろん、日本の生活様式の変化も感じ取ってほしいですね」と話します。

自分の原点である生家を受け継ぐ山本信三郎さん

この住宅、まず外観で注目したいのは、3年前に全面リニューアルされたばかりの茅葺き屋根。専門の職人が手がけたその屋根は、重厚感と機能美を兼ね備え、見る人を圧倒します。そして、滑らかな美しい曲線を描く「曲屋」や、「せがい造り」の軒下にも注目。藁・ヨシ・ヤマガヤ・シマガヤといった素材が織りなす4層のグラデーションには、対照的で繊細な美しさを見ることができます。

また、同住宅のある奥野谷地区は、江戸時代から明治時代にかけて半農半漁の村でした。当時、鹿島灘ではイワシの地引網漁が盛んに行われ、住宅周辺から市役所にかけては水田が広がっていたといいます。そのため、玄関口の土間「ニワバ」には、足踏み式の揚水機(水車)や脱穀機といった農機具、さらには地引網漁の際の煮炊きに使われた大釜など、当時の農業と漁業を物語る道具が数多く展示されています。

藁、ヨシ、ヤマガヤ、シマガヤ自然素材が織り成す、伝統美のグラデーション

梁や柱は約300年前から使用されるものばかり

郷土の歴史や文化だけでなく 現代の豊かな暮らしへの感謝も

平面積244平米の山本家住宅には、開放感のある高い天井が印象的な「ヒロマ」をはじめ、かつて役人などVIPの来客を迎え入れた「オクノマ」や「オクノザシキ」、そして平安時代の陰陽師として知られる安倍晴明公を祀った神棚がある、女人禁制の「オンナノハイレナイヘヤ」など、多彩な部屋が並びます。開放デーには3年前に新たに復元されたかまどや囲炉裏に火が入れられ、立ち上る煙で茅葺き屋根をいぶし、防虫・防腐・殺菌するほか、柱や梁に煤(すす)を付着させることで、建物の耐久性を高めているのだそう。

今年4月の開放デーでは、約80人の来場者を一日かけて案内したという山本さん。昔の女性たちが家事全般だけでなく家業も手伝っていた時代の苦労に触れ、「蛇口をひねれば水が出て、冷蔵庫も当たり前にある今の暮らしが、いかに恵まれているかを実感する機会にもなれば」と語るその言葉に、当時の暮らしを伝える人としての深い想いが込められていました。

神栖市大野原にある「神栖市歴史民俗資料館」では、山本家住宅の精巧な模型や、山本家に伝わる古文書などの貴重な資料を展示しています。そのほか、神栖市の歴史や民俗に関するさまざまな資料を収集・公開しており、市の歩みを身近に感じることができます。
また、「水と人々のくらし」をテーマに、太古からのこの地と鹿島灘・利根川との関わりや鹿島港の建設資料など、水辺の開拓によって変遷してきた神栖の姿も紹介されています。

「ヒロマ」では家族団らんの時間を楽しんだと山本さん

「かまど」は経年による劣化が目立ったため、全解体して、再現して作り直されたもの

土間寄りの南側にある「ウチエン」の様子

次回の山本家住宅の開放デーは、6月7日を予定。“温故知新”。過去に学び、今を見つめ直すひとときとして、神栖の歴史に触れてみてはいかがでしょうか。

神栖市歴史民俗資料館

【住所】茨城県神栖市大野原4丁目8番5号 
【電話】0299-90-1234
【時間】9:00~16:30 
【休館日】月曜日、年末年始(12月29日~1月3日)
【入場料】無料

山本家住宅 開放デー

【開催日】2025年度は偶数月の第1土曜日
(6月7日、8月2日、10月4日、12月6日、2026年2月7日)
【時間】10:00~16:00
【入場料】無料 ※開放デー以外も予約すれば見学が可能。
【問い合わせ先】神栖市教育委員会文化スポーツ課(TEL.0299-77-7495)