ショートストーリー
明日への贈り物 Episode42
一人で抱えた子育ての記憶 誰にも頼れなかったあの日の私

いばらきの子どもと子育てファミリーへある家族の物語をご紹介します。
この物語が誰かの救いや気づき、そして児童虐待防止につながることを願って。
ドラマの中の母親に自分を重ねる あの日々に差し伸べる手があれば
会社へ向かう夫を見送り、いつものようにのんびりとリビングでテレビを見ていた。ドラマに映る若い母親が散らかった部屋で疲れ果てる姿を見て、ふと思う。
「これはあの日の私だ」
私が長男を産んだ頃、頼れる両親は遠方に住んでいた。時々電話はするものの、娘の疲れた様子を見せるのはなんだか心苦しくて、子育ての悩みを打ち明けることはできなかった。ある夜、泣きながら母親に電話をしたが、なかなか繋がらない。見上げた時計はすっかり深夜を指していた。
「もう無理かも」
電話を切り、めちゃくちゃに散らかった部屋の中、長男の小さな布団の横で泥のように眠った。たったの一人の子育てもうまくできない情けなさが先立ち、誰にも相談できないまま、あれから数十年。無我夢中で毎日を過ごし、巣立った長男はすっかり一人で育ったような顔をしている。
今、テレビの中の女優は多くの人々の支えを得て、成長した我が子を見つめ、清々しい笑顔を浮かべている。その姿に、遠い日の子育ての記憶を重ねる。
「よく頑張ったね。もっと周りを頼って大丈夫だったよ」と、心の中であの頃の私に声をかけた。
※取材した実例をもとに一部フィクションを加えています
