1971年の発足以来、地域の子育て世代を支えてきた認定NPO法人水戸こどもの劇場。子育てが一人で抱え込む〝孤育て〟にならないために、地域に住む誰もが安心して子育てできるよう、ともに学びあい、助けあう活動を続けています。
孤育てを防ぐ多様な居場所づくりへ
今年で創設53年を迎えた「認定NPO法人水戸こどもの劇場」は、水戸市見川を拠点に茨城県内各地で青少年の育成や子育てをめぐるさまざまな活動を行っている団体です。
当時、カラーテレビが普及しはじめ、子どもたちが家の外で仲間と群れて遊ぶ姿が減少。そのことに危機感を持った母親や教師などによって、「子どもに夢を!たくましく豊かな創造性を!」を合言葉に、子どもが主体となったキャンプ、生の観劇、音楽の演奏や鑑賞など会員向けの活動からスタートしました。
そして、時代とともに子どもや親たちを取り巻く環境や問題がさまざま変化していく中、特定の会員だけでなく、助けを必要としている地域の人に手を差し伸べようと、1999年にNPO法人化しました。
子育て支援を中心に、生活困窮世帯の子どもの学習支援や訪問型病児保育など、茨城県をはじめ自治体や企業からの受託事業、忍者になって街を遊ぶ「忍者あそび」などの文化創造体験事業、以前から続く舞台鑑賞やファミリーブラスバンド活動などを通じて、誰もが主役となり成長し続ける機会を提供しています。
幅広い支援活動で
アフターコロナの孤立を防ぐ
子どもへの虐待の大きな引き金となるのが親の孤立。
子育て世代を取り巻く課題は、経済面、環境面、親子を含む人間関係など多岐にわたりますが、中でもコロナ禍の分断で生まれた〝孤育て〟の深刻な余波が今も続いていると代表理事の平野弥生さんは語ります。
「コロナで色んな交流が途切れ、親が孤立したり、人間関係や視野が狭くなっているケースが多々あると感じています。アフターコロナである今も、以前の状態に戻っていません」と警鐘を鳴らしています。
現在の子育て世代の中心は、インターネットが当たり前にある暮らしを送ってきた平成生まれの人たち。 メールやSNSでの短い文のやり取りが主流で、電話での申し込みや対面での相談が苦手な傾向があり、「コロナ以降、イベントは申込制が主流ですが、石橋を叩いても遠慮してしまう方が多いです」と危機感を抱いています。
そんな孤立した子育て(孤育て)は子どもへの虐待につながりかねない状況。水戸こどもの劇場ではそこから一歩踏み出せるよう、いろいろな居場所・活動を作っています。年間約3000名が利用する子育てひろば「ぽかぽかつどいの広場」、発達が気になる・個性ある子育ての話をするサロン「コモド」、多胎児を育てる親の交流サークル「かるがも」、多世代交流たまり場はやま庵、学校に行きにくい子どもの居場所「ポルタ」、おもちゃ貸出サロン等を運営。
また、子どもたちがいじめ、痴漢、性暴力などから自分を守るための人権教育「CAPいばらき」で、子どもたちを怖がらせることなく暴力の具体的な対処方法を伝えています。
見川中学校の真裏にある事務局は、可愛らしい人形の看板が目印!中ではたくさんの遊具で遊び放題!
孤育てを防ぐ居場所づくりへ
ママを支え、その先の子を救う
「子どもへの虐待は常に隣り合わせ。誰もが〝そちら側〟になる可能性があると思います」
平野さん自身、看護師としてフルタイムで働く中、双子を含む5人の男の子がいる子育て世代。外で子どもが騒いだことで邪魔者扱いされたり、まるで社会から「いらない」と言われている気がして、生きづらさを感じた経験がありました。
そんな時に優しく見守り、話を聞いてくれ、支えてくれたのが、水戸こどもの劇場のメンバー達。
「お母さんが元気で笑顔ならば、子どもも同じくいられるもの。私たちが孤育てを防ぐための居場所になれたらと思っています。そして、その先にいる子どもたちが元気に暮らせるようにサポートしていきたいです」
その時代によって、親子の「こんなのあったらいいな」は変化していくもの。水戸こどもの劇場はそんなニーズに寄り添い、地域に住む誰もが安心して子育てできる活動を続けています。
高齢者施設の一角で、赤ちゃんからお年寄りまで賑やかに過ごす多世代交流サロンを開催中