ショートストーリー
明日への贈り物 Episode6
虐待寸前の母親を救った はじめての189
いばらきの子どもと子育てファミリーへある家族の物語をご紹介します。
この物語が誰かの救いや気づき、そして児童虐待防止につながることを願って。
イヤイヤ期の息子と2人きり 勇気を出して振り絞った声
「もしもし……」受話器を握る手は震えていた。不甲斐ない自分への苛立ちか、それとも初めて掛けた「189」への緊張なのか。
今の息子は、いわゆる「魔の2歳児」のような状態。多忙な夫は家におらず、2人きりの空間で息子のイヤイヤが続く毎日だった。そんな今日、夕食の野菜を吐き出した息子を見て、思わず食器を壁に投げつけてしまった。息子はそれを見て大声で泣き始める。
「……もう、ダメだ」その時、市役所の子ども課でもらったチラシの「189」が頭に浮かんだ。でも、掛けていいのだろうか。何を話そうか。30分ほど悩み、いざコールボタンを押すとガイダンスの音声が流れた。
「はい、児童相談所です」切り替わった女性の声に向かって、とりあえず自分の現状をゆっくりと話してみた。「お母さんもよく頑張りましたね」その一言で何だか楽になれた。その後、いくつかのアドバイスをもらい、一時的な預かりをしてもらえるサービスを教えてもらった。電話から耳を離すと、重くのし掛かっていた何かが軽くなった気がした。
※取材した実例をもとに一部フィクションを加えています