結城市が生んだ世界に誇る旋律 ピアニスト作曲家 宮本貴奈

国際的に活動するピアニスト・作曲家の宮本貴奈さんは茨城県結城市出身。
国内外の著名アーティストとのコラボレーション、音楽監修したアルバムのグラミー賞ノミネートなど自身の音楽活動はもちろん、作曲やプロデュースでの世界的な評価も高く、厚い信頼を得ています。
生まれ育った結城市の「結城紬親善大使」にも任命され、音楽を通じた街おこしや教育活動も行う中で、彼女にとって音楽とは？そして、地元に掛ける思いに迫りました。

（※内容は2016年10月25日時点のものです）

「家に帰るといつも音楽が流れていて、テレビも歌番組などばかり見ていました」そう懐かしむように笑う結城市出身のピアニスト・作曲家の宮本貴奈さん。そのルーツは、音楽好きの父を中心とした家庭環境にありました。4歳のときに「何か楽器をやりたい」と親に自ら話したことをきっかけに、オルガンを始めたそうです。
　その後、小学校にあがりエレクトーンを習い始めました。当時ヒットしていた「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」などのジブリ映画を観たとき、衝撃を受けたと言います。「映像と音楽が一緒に在るとこんなに強く感動するんだと、一気に惹き込まれたんです。イメージのある音を作るということに興味を持って、14歳、中学2年生のときに作曲家を志しました」

音楽大学に進み作曲を学ぶため、エレクトーンからピアノへの転向がありました。エレクトーンとピアノは、右手でメロディー、左手で伴奏を奏でるところまでは同じでも、その鍵盤の重さの差や足で操るペダルの役割の違いなどがあり、当初は戸惑いを感じたそうです。それでも、エレクトーンで培った知識は、作曲家を目指す宮本さんにとって大きな基礎となりました。メロディーやコード、ベースとリズム。その曲を分析して理解することが出来たのです。例えば映画やゲームの音楽で、メロディーが同じでもハーモニーやリズムが違えば、その映像を見ている人の感じ方や想像力まで、いろんな形にかき立てることが出来ます。宮本さんは、その魅力に取り付かれました。
　いざピアノのレッスンに通い始めると、先生を質問攻めにして困らせてしまうほど音楽への興味がありました。そして中学3年生のとき、ジャズベーシストの恩師を通してジャズに出会います。「でも正直、その時はまだよく分からなくて…〝ジャズ、嫌い！〞という感じでした」当時はジャズの魅力がわからず、あくまで作曲の勉強としてジャズ理論を学んだ宮本さん。その後、恩師の勧めでアメリカのバークリー音楽大学に留学しました。そこで世界中の音楽家達と出会い、ワールドワイドな音楽活動を始めます。

バークリー音楽大学を卒業後、NY、アトランタ、イギリスと拠点を移しながら、その活動範囲は約30ヶ国に渡ります。ピアノ演奏・編曲・音楽監督を担当したジャズのアルバムがグラミー賞2部門でノミネートされるなど目覚ましい活躍を展開し、念願だった作曲・編曲はもちろん、レコーディング・プロデュースや作詞、最近ではオーケストラとの共演やアレンジなども手がけます。2013年に日本デビューを果たし、シンガーソングライターの中西圭三氏を始めとしたボーカリストとのコラボレーション等で活躍。結婚を機に帰国し、現在は国立音楽大学で演奏・創作学科ジャズ専修の非常勤講師としても教鞭を取っています。
　海外での活動の中、故郷への恩返しも忘れません。地元・結城市での活動も積極的、かつ継続的に行っています。結城紬がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを機に創設された「結城紬大使」にも任命され、スーパーバイザーとして20年間「つむぎの郷サウンドフェスタ」（次回は来年2月4日開催予定）に携わったり、国内外のゲストを招聘することでも国際交流のきっかけ作りや語学学習の機会を設けています。
　2013年には結城紬のイメージソング「紬のふるさと」も制作されています。縦糸と緯糸が織りなすイメージのピアノと篠笛、そして歌詞にはユネスコに登録された結城紬の制作過程「糸紡ぎ」「絣くくり」「地機織り」が盛り込んであり、歌を覚えると同時に地元の伝統文化の知識も自然と身に付きます。「結城市のゆるキャラ・まゆげったくんの『まゆげった音頭』は、
母の友人が付けてくださった歌詞に私がメロディーを付けてアレンジしました。歌は合唱団の団長を務める父が担当しています」さらに振り付けは宮本さんのお母様が担当、家族ぐるみの活動が伺えます。ワールドワイドな活動を行う宮本さんですが、私たちの普段の生活にもその音楽は細やかに息づいていたのです。

中西圭三さんと出演した「日本名曲アルバム」のスタジオから。

「私は、こうなったら楽しいな、嬉しいなっていうことを手帳に書いておくんです。忘れた頃に見ると、〝あっ！もう叶ってる！〞ってなることも多くて。夢のために意識すること、実現するために動き出すことで周りの人も手助けしてくれて、結果を引き寄せたときに一緒に喜んでくれる仲間がいることは、本当に幸運です」
　エレクトーンとピアノで音楽に触れ、映画音楽や作曲に憧れ、15歳でジャズに出会い、恩師達の導きで留学。そして渡ったアメリカの地で本場のジャズに目覚め、夢だった作曲家のみならず、ピアニストとしても活動を広げた宮本さん。「私にとって音楽は〝エンジン〞のようなものです。それがあるからいろんなことが出来る。羽となって世界中へ連れて行ってくれて、いろんな人と出逢わせてくれる力でもあるんです。すべてをつなげてくれている源に間違いありません」音楽は世界中の共通言語。言葉が通じなくても音楽があることで人々に様々な感動を喚び起こします。聴くことだけが楽しみではない音楽が、人と人とを結ぶ大切な役割を担うことで新しい絆となり、人を動かす原動力になるのだと強く感じました。

結城市にプレゼントした「まゆげった音頭」を、まゆG（父）と篠笛の狩野泰一さんと演奏。