地元のビッグクラブで研鑽を積んだ幼少期
中学時代にはFC東京の下部組織からスカウト
第2節のヴァンフォーレ甲府戦にて豪快でセンセーショナルなスーパーボレーでプロ初得点を飾り、リーグ終盤戦もゴールを量産中の久保征一郎選手。高身長の体躯を生かしながら鋭いゴールへの嗅覚を発揮し、華麗なシュートで魅了する大卒ルーキーのストライカーです。 そんな久保選手とサッカーの出会いは5歳の時。幼稚園の友人らが園と提携するサッカースクールに通っていたことがきっかけでした。
久保選手が所属していた太陽スポーツクラブは、久保選手の故郷の鹿児島市に本部があり、西日本を中心に25営業所も展開しているビッグクラブ。サッカーに魅了された久保選手は、更に上のレベルの選手育成コースでDFラインの中心となるセンターバックとしてプレーしながら、地区トレセンでも活躍していきます。 小学6年の時には、JFA全日本U-12サッカー選手権大会の鹿児島県大会で決勝に進出。惜しくも敗れてしまいましたが、12歳以下の九州チャンピオンを決める「フジパンCUP九州U-12サッカー大会」では、Jクラブの下部組織を撃破して見事優勝。九州最強のチームの一員として有終の美を飾り、そのまま太陽SCの中学生世代へと進みます。 「当時はまずフィジカル的に追いつくのが大変でした。身長は高かったのですが、身体が細くて。そこをどう乗り越えようか考えてプレーするうちに段々と技術的に周囲のレベルに慣れてきて、次第に上の学年の試合にも出られるようになった感じです」と中学生時代を振り返る久保選手。太陽SCは久保選手が中学1年生の時に県リーグで優勝を果たし、中学2年生からワンランク上の九州リーグへと戦いの舞台を移します。
アビスパ福岡、サガン鳥栖、大分トリニータなど強豪Jクラブの下部組織が競り合うリーグで勝利をもぎ取るのは至難の業。カップ戦の成績も奮わず、タイトルとはあまり縁のない中学3年間でしたが、久保選手は現在のポジションであるFWに転向し、前線でチャンスメイクする技術を身につけると、鹿児島県の選抜選手に抜擢され、九州大会で頭角を現していきました。 そして、FC東京U-18のスカウトマンに注目され、ユースチームへの加入オファーが舞い込んできます。「まさか自分が?とビックリしました。嬉しい反面、想像がつかなくて」と、ワクワクよりも不安要素が大きかったという久保選手。 迷い戸惑う中、その背中を押してくれたのは、『こんなチャンスは滅多にないから、迷ってるんだったら行った方がいい』、『一番いい環境で勝負してみて、プロになれたら一番いいし、ダメならダメでいい』という父親の言葉でした。 その言葉に背中を押され、挑戦する道を選んだ久保選手。中学校卒業後、親元を離れて単身で上京し、日本トップクラスの高校サッカー選手たちが集う舞台へと突き進みました。
名門・FC東京U-18で念願のJ3デビュー!
充実感と多くの壁が立ちはだかった高校3年間
東京での新しい暮らしと共にスタートしたJ下部組織での挑戦。当時を「楽しくもあり、たくさんの壁が立ちはだかった3年間」と振り返る久保選手。当時、FC東京U-18は全国トップ24クラブが戦う最高峰のプレミアリーグEASTに所属していました。 対戦相手のチームは、動画配信サイトでよく観ていた世代別日本代表の選手ばかり。 「画面越しで観ていた人が対戦相手で驚きしかなかったですし、全てにおいて上回られていた感覚がありました。でも自分の現状を知ることができましたし、フィジカル的にもまだ足りなかったので筋トレを始めたり、まだまだやらないと!とやる気が起きましたね」とモチベーション高く、日々の練習にまい進していきます。
ところが、東京都のTFA Tリーグを主戦場とするセカンドチームで着々と実力を発揮していた高校2年生の時に膝の大怪我で約4ヶ月も離脱することに。しかし、その年の終盤に怪我から復帰すると、Jリーグへの出場が可能になる2種登録選手に抜躍。間もなくJ3でデビューを果たし、3年生の時には得点も記録しました。 「失うものは何もないと思って、がむしゃらにやっていた記憶がありますね。周りがすごく上手かったので、自分をすごく生かしてくれた。またフィジカルの壁にぶつかりましたが、高校生ながらにJリーグの舞台に立てた喜びがありました」
成長の手応えと目の前の壁を超える苦しみを繰り返す日々。時は流れ、Jクラブのユース選手がトップチームへの昇格、つまりプロになれるか否かの判断が下される高校3年生の夏。年間を通じてコンスタントに実力を発揮できなかった久保選手のトップ昇格は成りませんでした。 「もっと自分はできるのに…と思っても、なかなか上手くプレーで表現できず、監督に認めてもらえませんでした。なかなかトップチームに絡めないもどかしさもありました」と当時の悔しさを口にする久保選手。Jリーガーとなる目標を達成するため、強豪で知られる法政大学に進学し、武者修業する道を選択したのでした。
厳しい環境で成長を遂げた大学サッカー時代
温かく応援してくれた両親への感謝
当時の法政大学には、水戸市出身で後に日本代表のエースストライカーとなる上田綺世選手(オランダ1部・フェイエノールト所属)が在籍していました。『同じFWとして、きっと自分も吸収できるものがたくさんあるだろう―』と、意気揚々と入学したタイミングで、なんと上田選手がプロに転向。いきなり出鼻をくじかれますが、法政大学体育会サッカー部はプロ候補の選手しか入部できない少数精鋭で、お手本となる選手ばかり。J3での得点経験もある久保選手は、1年生からAチームのメンバーに入りましたが、大学サッカーのフィジカルの強さ、技術の高さ驚に驚いたといいます。一筋縄ではいかない高いレベルの競争にあらためて気を引き締め、人間性も含めて、さまざまな面で成長を遂げていきます。 「やらされるだけじゃ成長しない。言われたことに対して、何言ってんだと反発するんじゃなくて、一回噛み砕いて、自分にどう生かしていくか。ピッチ外でもそういうことを普段から意識していると、プレー中も些細なことに気付ける感覚が養われていったんです。それはプロになった今につながっていると思います」
上下関係が厳しい全寮制の環境の中、ピッチ外のあらゆる物事に対しても柔軟に捉えて、どんどんピッチ内のプラス材料にしていった久保選手。インカレや総理大臣杯の全国大会で毎回のように上位に入る強豪大の主力メンバーとして、ハイレベルな関東一部リーグで研鑽を積んでいきました。 4年間持ち越された長く険しいプロへの道。それを諦めなかったのは、いつも温かく応援してくれた両親の支えがあったからだと言います。 「どんなに上手くいかなかったり、辛いことがあっても、サッカーを投げ出したりしなかったのは、自分のために働いて支えてくれる親のためにも絶対に負けたくないという気持ちを忘れなかったからです。だから、サッカーをやめたいと一度も思ったことはありません」 そして、水戸で念願のプロになった久保選手は、「親に恩返ししたいです。自分がゴールを決めて、結果で喜んでもらいたいと思っています」と親孝行に励んでいるそうです。
5歳でサッカーと出会ってからさまざまな困難がありながらも、「ただただ、楽しみながらやっていた」という久保選手。 「これまでにも多くの選手が言っていると思いますが、サッカーを楽しむ気持ちを忘れてはいけません。僕自身、その時、その時の楽しさがあったから、今も続けられています。必死にボールを追いかける楽しさを忘れないことが大事だと思います」 また、プロを目指す子どもたちには、早い段階で得意なプレーや自分の特徴を見つけて欲しいと話します。加えて、苦手な形をなくして自分のスタイルを確立することが重要なのだそう。例えば、久保選手がプレーするストライカーは、多くの称賛を浴びるサッカーの花形ポジション。 「フォワードとして得点を量産するために、逆算してどんな形からフィニッシュに繋げるかをたくさん練習して、自分の形を見つけられたらいいと思います。自分が意識しているのは、苦手な形を作らないこと。どんな体勢、攻撃の形、足、頭でも決められるように練習するのは大切だと思います。もし利き足が右ならば、左足でも蹴れたほうがいい。得意な右足で蹴るのは楽しいですが、左足でも蹴られたらもっと楽しくプレーできる。そういう単純なことから始めてみて欲しいです」 ちなみに久保選手が今シーズンのリーグ第28節・群馬戦であげたゴールは、クロスバーに当たったボールを胸トラップで落とし左足で一閃したプレーでしたが、本来は右利き。小学生の頃は左足で上手く蹴れず、それを指導者や親に指摘された反骨心から左足でのキックを猛練習したのだそう。鏡の前で利き足と同じフォームで蹴れるように何度もチェックしながら反復練習を続け、次第に両足が自在に使えるようになったといいます。
そしてもう一つのお薦めは、プレー動画でイメージやアイデアをストックすること。 「僕は幼い頃からプレー集を観るのが好きでした。父が借りてきてくれたスーパーゴール集を繰り返し観てイメージを膨らませたり、アイデアを取り入れていました。そして実際にプレーを真似してみるなどの実践を繰り返しやっていたのが、今も生きていると思います」 その効果を証明したのが、第2節・ヴァンフォーレ甲府戦のスーパーボレーシュート。「2011年のAFCアジアカップ決勝で李忠成選手が見せたボレーシュートを何度も父と練習した記憶があります。そういう経験から、あのプロ初得点が取れたのかもしれません」と振り返っていました。
新婚夫婦の共通の趣味はディズニーリゾート!
大洗の海鮮料理や水族館で過ごす休日も満喫中♪
今年7月にめでたく入籍を発表した久保選手。結婚後としては初ゴールとなった8月25日の群馬戦で、左手の薬指にキラリと輝く結婚指輪にキスをするパフォーマンスを披露していたことは記憶に新しいところです。 新婚生活を満喫中の久保選手のオフの過ごし方は、もちろん愛する奥様とのデート。海鮮料理が好きな奥様と大洗で新鮮な牡蠣を食べたり、大洗水族館でキュートなカワウソや魚たちと触れ合って、二人きりのオフを満喫しているのだとか。
そして、夫婦共通の趣味はディズニーリゾートに行くこと。2日間オフの時はいつも夢の国へ足を伸ばすのだそう。 「妻の影響で自分も好きになりましたね。新エリアのファンタジースプリングスも、もう2、3回行ったほど好きなんです。この前はパレード目当てでランドのほうに行ったのですが、悪天候で中止になってしまって…。また次の機会に行きたいと思います!」と夫婦で再訪を約束しているとのこと。 また、奥様も同伴した既婚者の選手同士での食事会では、松原修平選手がサプライズでケーキを用意して結婚を祝福してくれたことが嬉しかったという久保選手。チームメイトとも家族ぐるみで仲良く過ごしながら、夫婦でともに茨城での暮らしを満喫していると笑います。
2024シーズンのホーム戦も残すところ、あと僅か。今季のチーム最多得点記録をマークしそうな活躍を見せるなど、充実のルーキーイヤーを過ごしている久保選手。 「シーズンが終盤になって、より緊迫した試合展開が待っていると思います。その緊張感を味わえるのはスタジアムでしかないと思いますし、水戸が勝てばより盛り上がると思います。選手はしっかり勝利を届けたいと願って、日々練習から頑張っています。本当に一人でも多くの人にスタジアムに足を運んでもらいたいです」 激動のシーズンとなった水戸ホーリーホックの戦いも、間もなく最終決戦!一人でも多くの声援が、久保選手の華麗なゴールを生み出すチカラとなります。歓喜の渦に包み込まれる熱狂のホーム・ケーズデンキスタジアム水戸へ駆け付けましょう!
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