ショートストーリー
明日への贈り物 Episode17
受験期の中学生 母に届かない私の気持ち
いばらきの子どもと子育てファミリーへある家族の物語をご紹介します。
この物語が誰かの救いや気づき、そして児童虐待防止につながることを願って。
働く母に志望校を言えない受験生 小さな願いに耳を傾けて
今年は受験。私は吹奏楽の強豪校を目指して部屋で猛勉強をしていた。
飲み物を取りにリビングへ行った時、パートから帰った母が洗濯物を手にしながらチラリと私を見て一言。
「身の丈にあった学校に行きなさいよ。そうだ、家からも近いし、〇〇高校とかがちょうどいいんじゃない?」
母にとっては何気ない言葉だったのかもしれない。成績もそこまで上の方ではなかった私は、反論できなかった。
黙っていると、母は「ね、それがいいわよ」と私の志望校を決めてしまった。昔からそうやって私の人生は決められてきた。今回も同じ。そのまま言い出せないまま、時が過ぎていった。
いよいよ願書を出す日。私は、まだ志望校を諦めきれずにいた。食器を洗う母に、淡い期待を抱きながら「吹奏楽、高校でも続けたいなぁ」と言った。
「続けられるといいわね」上の空で返された言葉に何も言えず、暗い気持ちでリビングを後にした。
受験本番まで、あと1カ月。私はこれから、どうしていけばいいのだろう。そう思いつつ、シャーペンを持った。
※取材した実例をもとに一部フィクションを加えています